イネのフィトアレキシン生合成遺伝子

 フィトアレキシンとは、植物が病原菌などの生物ストレス、UV処理、エリシターなどの非生物ストレスにさらされたときに植物側で生合成・蓄積される低分子の抗菌性化合物のことです。イネ(Oryza sativa)のフィトアレキシンは17種類が知られていますが、そのうち1種がフラバン型のサクラネチンで、それ以外はジテルペノイドです。最近単離同定されたent-10-oxodepressinはマクロ環ジテルペノイドですが、それ以外の14種はコパリル2リン酸(CDP)を経て生合成されるlabdane関連ジテルペノイドです。それらlabdane関連ジテルペン系フィトアレキシンとしては、ent-CDPより生合成されるフィトカサンA〜E、オリザレキシンA〜F、syn-CDP(ent-CDPのジアステレオマー)より生合成されるモミラクトンA、B、オリザレキシンSが知られています。これらは基本炭素骨格の構造の違いにより、それぞれカサジエン型、サンダラコピマラジエン型、ピマラジエン型、ステマレン型とよばれます。私たちの研究室では、それらの基本炭素骨格形成に関与するジテルペン環化酵素遺伝子を全てイネゲノムより機能同定し(OsCPS2, 4, OsKSL4, 7, 8, 10;図参照)、2004年に論文報告しました。

 また生合成遺伝子が特定できたことで逆遺伝学的手法が可能となりました。私たちは、OsCPS4のTos17挿入ノックダウン体をミュータントパネルよりPCRスクリーニングにより見出し、モミラクトンとオリザレキシンSの生合成量が低下することでいもち病菌抵抗性が野生型より低くなること、さらに根より浸出するアレロパシー物質としても知られるモミラクトンの土壌中への浸出量が低下することで周辺の水田雑草の生育がよくなるという結果を得て、モミラクトンのフィトアレキシン、さらにアレロパシー物質としての役割が逆遺伝学的に示唆されました。


山形大学 農学部 分子細胞生化学研究室

主に高等植物をターゲットとして、生命及びその活動の仕組みを生化学・分子生物学的に理解・解明することを通して教育研究を行っています。