胚発生メカニズムの解明

 種子の発芽は、種子胚の発達状態に強く依存していることから、胚発生のメカニズムについても研究を進めています。


胚形成におけるジベレリンの関与

 胚形成の研究は種子胚の小ささや受粉を同時に行わせるなど、生化学的研究を行う上で材料の供給が困難となります。植物の培養細胞では「動物における卵細胞や近年、注目されているES細胞やiPS細胞」のように「分化全能性」を持っています。この植物培養細胞における「分化全能性獲得」については多くの謎が残されていますが、この「培養細胞からの胚(体細胞胚)」を利用して実験を行いました。

 US-春蒔き五寸ニンジン(Daucus carota L. cv. US-Harumaki-gosun)の10日程度の幼芽生えから茎部を切り出し、寒天培地に移植すると不定形細胞塊(カルス)が増殖します(左上図)。これを液態培地に植継ぎ、培養細胞を増やします(右上図)。培養細胞は細胞の形状によって体細胞胚形成能を持つEmbryogenic cells (ES細胞)と分化能を失ったNon-embryogenic cells (NC細胞)に分類することができま(左下図)。ES細胞の培地から細胞分裂誘導ホルモンであるオーキシン(人工オーキシン2,4-D)を除くと同調的に体細胞胚が誘導されます(右下図参照、筑波大学遺伝子実験センター・鎌田博先生にご伝授いただきました)。

 

通常の植物では種子胚は花粉受粉後約3週間で魚雷型まで成長し46〜49日で乾燥種子まで成熟します。一方、体細胞胚で約14日で魚雷型胚まで発達し、種子胚の2倍弱の速度です。

 この系を使って、これまで不明であった「胚発達とジベレリン(GA)との関係」を調べました。GA合成酵素阻害剤ウニコナゾールを添加したところ、球状型胚以降の成長が抑制されました(下図参照)。

この抑制はジベレリンの共投与で回復しました。このことから私達は、ニンジン体細胞胚では発生初期にde novo合成されたGAが球状型胚以降の形態形成に必須であると考えました(Bioscience,Biotechnology and Bio-chemistry 67, 2438-2447)。

 次に、GAのde novo合成に関与する酵素遺伝子を単離するため、発達中の胚で発現上昇する3種類のGA合成酵素(GA3ox)遺伝子を単離しました(同前)。特に、1種類のGA3ox遺伝子についてはin situhybridization法やプロモーター::GUS法によって、発達中の胚における発現場所を同定しました(未発表データ、論文準備中)。

 これらの研究は科学研究補助金(基盤研究(C)、課題番号12660095および課題番号16580084)のサポートを受けて行われました。


ニンジン体細胞胚におけるその他の調節系

 体細胞胚形成はダイナミックな現象で、それに関わる様々な制御系が働いていると想像されます。私たちは不定胚形成時に発達するタンパク質分解酵素(左図参照)を見つけました(Bioscience, Biothechnology and Biochemistry 68, 705-713)。また、未発表ながらmiRNAを介したmRNA分解系に関与する因子の変動、細胞死関連因子、オーキシン輸送体、等についても若干の研究を進めています。

山形大学 農学部 分子細胞生化学研究室

主に高等植物をターゲットとして、生命及びその活動の仕組みを生化学・分子生物学的に理解・解明することを通して教育研究を行っています。